自己啓発 

「死ぬ前に考えておきたいことがある」
何かを達成するための方法は幾通りもある。
何を選ぶのかが自由なせいで君は思考停止に陥る。そこで大事なのはシンプルさだ。シンプルな理論を大きな声で力強く自信を持って言ってくれることを君は望む。
「それなら私でもできる」
そう考えた時点で君は自分の魂が澱んでいくことに半ば気づいているが、楽な方向に流れようとする。
「仕方ないよ」
 諦めが口癖となる。
「どうしようもないよ」
 不条理なのではない。どうしようもないわけではない。諦めなくてもいい。
「そういう言葉は無責任だ。もし私がそれでできなかったらどうしてくれるんだよ。終わりだよ。今ならまだやっていたらできたかもしれないっていう希望の可能性が残っているんだ」
 しかし、やらなければできない。やらなかった可能性に意味は無い。夢の残滓は慰めと後悔でできている。
 すべては君が何を選ぶかだ。
 今の君は、今まで君が選んできたものでできている。不条理に与えられたものだってあるだろうが、すべての思考、選択を君が選んできた。
 君は今の自分に自信を持つべきだ。過去の自分に後悔や嫌悪を持っていたとしても今の自分には関係ない。能力的、環境的、今の状況と君の能力を作り出したのは過去の君だ。けれど、心意気だけは今の君が手に入れることができる。結局のところ今しかない。この瞬間しかない。この瞬間に最高の気分であれば、君は最高だってことだ。過去は存在しない。ただ、今を楽しめ。似たような瞬間を繰り返している。よく似た光景をよく目にする。けれど細部や何もかもが違うのだ。それがよく見えていないだけだ。よく見ろ。目は開いているのに閉じられている。それは目だけの問題でも無く心の問題でもある。
 気分の悪い世界は最悪の世界だ。
 気分の良い世界は最高の世界だ。
 この瞬間に全力を注ぐ。心意気だ。全力ですべてを感じるように。すべてと向き合えたら、喜びが溢れるだろう。君の神は君だし、君の世界は君のものだ。

 何となく想像の内側を埋めるような喜びを求めてる。内発的な衝動が喜びを生み出して、誰かへの貢献が僕の力になるのなら、それは喜ばしいことだなって本当に思ってる? YESかNOで答える二択。そんなものは吹き飛ばしてしまいたい。愛情を叫べよ。遠く響く声で。空に浮かぶ真っ白な雲やただただ青い空。僕らの青春を押しつぶしてしまうような美しさの中で。ただ、叫ぶよ。衝動が感情が僕らを揺り動かして。

everywhere

この世界というか現実に生きる喜びを失った時に、それをどうやって思い出せばいいんだろう。退屈な日常をきらめかせるには何がいるんだろう。一瞬の完全なきらめきと出会って何かを捕まえるために旅に出る。その捕まえたはずの何かは次第に忘れられた日常に埋まっていく。それでもどこにも無い場所を求める。けれどそれはどこだっていい。どこでだって自由だ。

 明確な形に魑魅魍魎が見える。悪霊が歩きゆく人々の背後でのたうち回っている。際限なく湧き出る人たちの欲望に悪霊が逆に取り殺されそうになっているのだ。私の掌の中にその残滓が落ちてきて、きらきらと燦めきを見せながらその霊体は消えて行く。……とかいうのは堕落しきった私だけに見える妄想だと思われる。黒くもやもやとしたそれを口の中でもちゃもちゃ、もにゃもにゃすると身体が目に見えて元気になるような気がするのも気のせいだ。それと、最近白い兎を見かける。赤い二つの眼を光らせていつだって視界の隅にいる。捕まえようとしてもどうしたって捕まらないから、この子もきっと私の妄想なんだ。
 桃色の鮭切り身を食べる。姉が鮭をまるごと飲み込み喉に引っかかったのか痛そうにぽろぽろと瞳から涙を流す。自業自得だ。私は濁った瞳で姉を見つめる。姉の葬式に出ることになるのはいつだろう。菜っ葉に醤油をかけて食べる。しんなりとしていておいしい。ご飯を食べ終わった姉が頬杖をついてテレビを見ている。食器を下げて洗い物をする。洗剤を大量にスポンジにぶちまけて無駄遣いをして泡を大量に泡立て食器を綺麗にする。姉の脛をおもいきり蹴った。
 沈黙している。私は沈黙していたりする。内心は咆哮している。瓦のように巨大なクッキーを食べたい。欲望と衝動は拳に握りこんで捨てろ。
 お婆ちゃんが私に愚痴を言う。炬燵が大きすぎるだの、お菓子がなんもないだの、雨がふらんでどもならんだの。知るか滅ぼすぞ。
 たぶん、世界の果ては随分近い。
 安物のウィスキーをロックで飲んだ。
 天へ聳える掘っ立て小屋がある。ある日庭に巨大な黒い巨大な長方形の物体が落下してきてそれを覆うように巨大建造物が建てられたのだ。
 幻覚だ。
 線路はどこまでも続いています。
 勿論、鯨だっています。
 瞼の上に住んでいた少数民族達が私を覗き込みます。
 私の風貌を目にし嘲笑します。
 なんと、醜く浅ましく惨めなものか。
 なので、袖すり合うように他人に頼って、空虚な心をお金などで埋めたりします。
 他者の愛情は補給物資でした。
 私は自走し、自立する。
 線路は向こうから伸びてきています。
 沢山の線路が私に向かって伸びています。
 惰性が跋扈し、脅迫が日常化し、空っぽの脳は何も考えず。
 ただ、棺桶を目指しています。

 そして、100年が過ぎた。
 この言葉の中に私の想像する100年間が押し込められている。
 今、この瞬間に陽が落ちてまた登る。時が過ぎ去り、私の部屋が砕け散っていく。
 映画の早回しみたいに人々が高速で動いている。動きすぎてもはや線に見えている。空が真っ暗に

なっては太陽が昇り、月が昇っては雨が降り、雲は流れ続ける。机の上に置いてあったコップの中の

水が蒸発して私は水を飲むことができない。コップを持つ前にガラスが砕け、砕けた硝子を拾おうと

する前に、机が風化して足が折れる。部屋の劣化によりピンク色の壁紙の色が抜け落ちぱらぱらと落

ちてくる。むき出しの木から木屑が落ちてきて、いつのまにやら天井が無い。
 私だけが過ぎ去る時間から取り残されている。

見ているもの

 助手席で笑っている顔が思い出せる。手帳に書き込まれた可愛らしい顔だけのデフォルメされたキャラクターだとか、無駄にとってある旅行先のパンフレットだとか。失われてもまだ残っているものがあって、ひどく凄惨な気分になる。
 失われることが必然だとして、それを終わるまで続けるか、終わる前に別れるか、選択を促すのは可能性なのか。「消えてしまっても、見つけてあげる」初めて見つけられた時の喜びはもはや失われてしまっているようだ。
 毎日を楽しく生きられたらいいな。別れることは罪悪感を伴う。部屋に置かれたピアノを弾いていると、差し込まれた光によって塵がよく見える。その空間はとても幻想的に見える。目玉焼きやベーコン、ほうれん草の炒める音が響いて、カーテンの隙間から後頭部だけを熱く照らす光が素晴らしいもののように思えた。幸福な瞬間を追い求めて、幸福であることを消費する、消費した。
 幸福の海に溺れていく。笑いながら悲鳴を上げて、答えはもうわかりはしない。
「正しさはどこにあった」「その選択が唯一でしかなく、それ以外を選べるわけもない。すべては正しさでできていて、選択が一つしか無い故に、選ばなかったものに対しての後悔だけが残る。ただ選んだものだけを信じて盲目に生きていくことだ。くだらない、くだらない話だ」
 なんとなくわかっているが、終わらせずにずるずると、届かないことや想いの違いなどを自覚しているのに、それでも傷つけ合うのは嫌だからと、なぁなぁで続けて深く深く、何も考えなくなるまで潜った深海の果てで、水面に登っていく泡や、届かない光を見つめる。
 鍵をかけられた瞬間はこっちにもわかって、見切りをつけて切り替える。自分だけが残されて、こっちだって部屋の中で鍵をかけてやる。
 たとえば、汚れたり傷ついたり、傷つけたり、相手に爪痕を残すように、忘れないようにデートをこなしていく。それはゲームで誰かの好感度を上げるのとよく似ている。細部は違っているけれど、大部分は同じ。交換可能なデート。
 足りないものを補充しようとしている。欠落した穴を埋めようとしている。それが激しい衝動だったり、欲望だったりするのだろうか。
 メモ帳代わりの手帳に、出来事/イベントを書き連ねる。自分が何を感じているのかを分析して、自分の感情がどこから発して、どこまでが嘘で本当なのか考える。離さないでいて欲しいという寂しさなんて全くない。「全然大丈夫」
 嘘ばかりつくな。退屈な嘘をつくな。嘘をつかせるな。
 わがままな君は汚い言葉で僕を罵る。君は綺麗な言葉で僕を罵る。諦めの境地で僕は君の強い言葉を受け流す。受け止めたら沢山の血が流れてしまいそうだったから。君は受け止めていないと言う。僕はちゃんと聞いているよと言う。僕は罵らない。怒りは内側で霧散し無機質になる。たまに君は僕に罵って欲しいんだろうかと思う。けれど、罵ってしまったら君は怒って泣いてどこかへ行ってしまうだろう。だから僕は君を罵りたい時でも罵らない。たまに君がいない場所で罵ることだってあるけれど。
 残骸じゃなくて意味のあるものが欲しい。ただ美しいものだけが欲しい。君の罵りや汚いものは僕の持っている白く静謐な部屋を廃墟に変える。廃墟が光に照らされていると美しく思う瞬間もあるけれど、とても価値があるとは思えない。価値判断の基準が自分の中から失われようとしているようにも思う。
 

満たしておくれよ

急に日常生活を送れなくなってしまった人たち。
日常生活のまねごとをしてみても、あまりに同じにならないから。
笑える。あまりに心が動かないから。
友人が別人と入れ替わっているのだと彼女は僕に耳打ちしてくる。そして、自分を殺しにくるのだと彼女は叫ぶ。大丈夫、僕が守るよと彼女に伝える。彼女は首を振る。壊れた首がバネになってる人形みたいに左右にはねて、「第三次世界大戦が始まる!」とかって、君はもう理解を超えてる。
くすんでいた色合いががらりと変わり、鮮やかな印象をもたらすような、
日常の起爆剤
世界に爆弾を、空から振らせておくれ。
食欲、性欲、名誉欲、支配欲、権力欲、自己顕示欲。
欲望を叫んで、満たして、歯車のように繰返す。
村で一番見晴らしのよい高台に駆け上がり、ヨーデルを思わせる発声で異変や事件の勃発を村中に告げる。叫ぶ男。事件を起こすのは彼だ。
彼が叫ぶから事件が起こるのだ。
村人たちは彼を殴って殺す。
叫ぶ人はいなくなったが、事件が起こるたびにまた同じ叫ぶ人が現れた。
また殴って殺した。
何度も何度も繰返して、一人だけが残って死んだ。